介護離職や不登校の子を持つ親が年々増加する中、仕事との両立支援は今や規模を問わず企業の「生存戦略」となりました。さらに2026年4月からは「治療と仕事の両立支援」も事業主の努力義務となり、育児・介護にとどまらない"トータルな両立支援"が企業に問われる時代がいよいよ到来します。今回は、先進企業5社の最新事例をもとに、中小企業が今すぐ取り組むべき現実的な人事労務戦略を解説します。
| 目次 1. 両立支援はもはや福利厚生ではなく「リスクマネジメント」 2. 努力義務となる「治療と仕事の両立支援」 3. 先進企業5社の取り組みと共通点 4. 中小企業が今すぐできる両立支援の実践ポイント 5. まとめ |
2025年以降、団塊の世代がすべて75歳以上となり、介護を理由とした離職者は年々増加傾向にあります。また、文部科学省の調査(@)によると2024年度の不登校の小中学生は約35万4千人と過去最多を記録し、共働き世帯の一般化も相まって、「家庭の事情による離職リスク」は全世代に広がっています。
さらに2026年4月1日施行の改正労働施策総合推進法では、「治療と仕事の両立支援」への取り組みが、すべての事業主の努力義務として明確に位置づけられました。育児・介護にとどまらず、がんや慢性疾患、精神疾患などの病気治療を含めたトータルな支援体制の整備が、企業の責務として求められるようになったのです。
こうした状況の中、ジャパネットたかたや住友林業、パナソニックコネクトといった先進企業は、法定を大きく上回る独自制度を次々と打ち出しています。これらは単なる社会貢献ではなく、「優秀な人材を失うことは、事業の継続を揺るがす最大のリスク」という経営判断に基づいた生存戦略です。今回は、これら5社の取り組みから、中小企業でも実践できる両立支援のヒントを探ります。
@出典:文部科学省「令和6年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果及びこれを踏まえた対応の充実について(通知)」
改正労働施策総合推進法(2026年4月1日施行)により、すべての事業主は、治療を受けながら働く従業員に対して以下の環境整備に努めることが求められます。罰則はありませんが、国の指導・助言の対象となります。
| 求められる取り組み | 具体的な内容の例 |
|---|---|
| @基本方針の策定・周知 | 治療と仕事の両立支援に取り組む旨を明文化し、全従業員へ周知する |
| A意識啓発のための研修 | 当事者だけでなく上司・同僚も含む全員を対象に研修を実施する |
| B相談窓口の明確化 | 安心して相談できる窓口を設置し、病状等の情報管理ルールを整備する |
| C制度・体制の整備 | 時間単位の年次有給休暇、傷病休暇、時差出勤、在宅勤務制度などの導入・活用 |
| D事業場内外の連携 | 産業医・主治医・医療ソーシャルワーカー等と連携した支援体制を構築する |
育児・介護だけでなく、「病気治療」も含めた幅広い両立支援が企業に求められる時代になったといえます。本改正内容について、下記の弊所ブログにて詳しく解説しています。
| 【2026年4月法改正】努力義務:治療と仕事の両立支援の実務ポイント |
各社の取り組みには、現代の従業員が直面する「時間の不足」と「経済的不安」を解消するための具体的な工夫が詰まっています。
1.ジャパネットタカタ:介護休業を通算2年に延長
介護期間の平均は4年7カ月。法定の93日では到底足りない現実に対し、同社は2025年12月より介護休業を通算2年(約730日)、時短勤務を最大10年にまで拡充しました。「使いやすさ」を重視し、中長期的な介護にも対応できる環境を整えています。
▶出典: 介護休業を通算2年まで延長へ 〜介護関連制度拡充で従業員の「働き続けたい」をサポート〜
2.住友林業:「不登校・引きこもり」も対象とする新制度
2026年1月より開始された「ファミリーケア休業制度」は、従来の育児・介護の枠組みを超え、不登校や引きこもりの子を持つ社員も対象としました。通算3年間の休業や週休3日制の選択が可能で、多様化する家族の悩みに寄り添っています。
▶出典:ファミリーケア休業制度を新設〜家族のケアが必要な社員を支援し、多様な働き方を実現〜
3.パナソニックコネクト:経済的支援と多様な選択肢
介護休業中の賃金70%支給(183日以内)や、34歳以下の女性社員への卵子凍結費用補助(40万円まで)など、経済的サポートが手厚いのが特徴です。週3・週4日勤務の選択も可能にし、個々のライフプランに合わせた柔軟な働き方を提示しています。
▶出典:DEIに関する制度
4.イトーキ:家事・育児サービスの費用を月額最大5万円補助
2026年3月より、ベビーシッターや家事代行、送迎代行などの利用費を実費補助。特に負担が重くなる「小1の壁」対策として、外部リソースを経済的に活用できるよう支援しています。
▶出典:育児・家事補助制度を導入 対象社員に月額上限5万円を補助
5.ダイナム:年間最大10日の「養育両立支援休暇」
改正育児・介護休業法に基づきつつ、行事参加や送迎など幅広い事由で使える無給休暇を導入。「上司が能動的に意向を確認する面談」をセットにすることで、制度が形骸化しない仕組みを作っています。
▶出典:柔軟な働き⽅を実現する新たな制度を導⼊
| 企業名 | 特徴的な制度 | メリット |
|---|---|---|
| ジャパネット | 介護休業 通算2年 | 長期化する介護離職を徹底防止 |
| 住友林業 | ファミリーケア休業 | 不登校・引きこもり等の新しい課題に対応 |
| パナソニックコネクト | 賃金補償・卵子凍結補助 | 経済的不安を解消し、キャリア継続を支援 |
| イトーキ | 育児・家事サービス補助 | 外部活用による「負担軽減」を直接サポート |
| ダイナム | 養育両立支援休暇 | 時間単位の取得で、日常的な突発事態に対応 |
先進企業の共通点
これら5社の取り組みに共通するのは、以下の3点です。
1. 法定を大きく上回る独自制度
2. 従業員の声を反映した制度設計
いずれの企業も、従業員アンケートや先行トライアル、個別面談などを通じて、現場の声を制度に反映させています。
3. 経済的・時間的な両面からのサポート
休業期間の延長だけでなく、賃金補償や外部サービス利用費の補助など、経済的な支援も充実させている点が特徴です。
「大手の真似は資金的に難しい」と感じるかもしれません。しかし、中小企業の強みは「制度の柔軟性」と「顔の見える距離感」にあります。ここでは、今すぐできる両立支援の実践ポイントを挙げていきます。
ポイント1:まずは従業員の「困りごと」を把握する
アンケートや個別面談を実施し、育児・介護・病気治療など、どんな悩みを抱えているかを把握しましょう。「言わなくてもわかる」ではなく、「聞く姿勢」が重要です。
ポイント2:既存制度の柔軟な運用から始める
新しい制度を作らなくても、既存の時短勤務やテレワーク、時差出勤などを柔軟に運用するだけで、従業員の負担は大きく軽減されます。
ポイント3:「法定を少しだけ上回る」小さな改善を積み重ねる
介護休業を93日から120日にする、育児短時間勤務を小学3年生まで延長するなど、小さな改善でも従業員には大きな安心感を与えます。
ポイント4:「治療と仕事の両立支援」の体制を整える(2026年4月・努力義務)
2026年4月施行の改正労働施策総合推進法により、病気治療をしながら働く従業員への支援体制づくりが努力義務となりました。大がかりな制度改革は不要です。中小企業がまず着手しやすい行動は次の3つです。
「困ったときに相談できる場所がある」と従業員が感じられるだけで、離職防止に大きく貢献します。
ポイント5:助成金・補助金を活用する
労働省の「両立支援等助成金」など、制度導入を支援する助成金があります。社会保険労務士に相談すれば、申請手続きもスムーズです。
ポイント6:「会社が味方である」ことを伝える
度を作るだけでなく、「困ったときは相談してほしい」というメッセージを経営者や人事担当者が発信することが、従業員の安心感につながります。
2026年以降、労働基準法の大改正や最低賃金の大幅引き上げなど、中小企業を取り巻く環境はますます厳しくなります。さらに、育児・介護に加えて「治療と仕事の両立支援」も努力義務化され、企業が向き合うべき両立支援の対象は確実に広がっています。
こうした時代だからこそ、「一人ひとりの事情に寄り添える企業」であることが、採用力・定着力・生産性向上の源泉となります。
大企業ですらこれだけの危機感を持って動いています。中小企業ならなおさら、一人ひとりに寄り添った機動力のある対応が武器になります。ジャパネットタカタ、住友林業、パナソニックコネクト、イトーキ、ダイナムといった先進企業の取り組みは、規模の大小にかかわらず、「従業員の実情に寄り添う姿勢」が何より重要であることを教えてくれます。
まずは従業員の声を聞くことから始めてみませんか? そして、できる範囲で柔軟な対応を積み重ねていきましょう。当事務所では、企業の両立支援制度の設計・運用から、治療と仕事の両立支援に関する体制整備・就業規則改定まで、貴社の実情に合わせてトータルでサポートいたしますので、みらいくまでお気軽にご相談ください。