作成日:2026/03/04
【2026年4月法改正】努力義務:治療と仕事の両立支援の実務ポイント

2026年4月より、すべての事業主に対して「治療と仕事の両立支援」が努力義務化されます。これは単なる法的対応にとどまらず、貴重な人材の離職を防ぎ、組織の活力を維持するための重要な経営戦略です。今回は、中小企業が今から取り組むべき実務のポイントを分かりやすく解説します。
なぜ今、両立支援が必要なのか
厚生労働省の国民生活基礎調査によると、最新データの2022年時点で働く人全体の約4割が何らかの病気・けがで通院しています。(図1)医療技術の進歩により「治しながら働く」ことが可能になった一方で、中小企業では支援制度の未整備により、貴重なベテラン社員が離職を余儀なくされるケースも少なくありません。今回の法改正(努力義務化)は、こうした背景を踏まえ、企業に対して「対話の窓口」を作ることを求めています。適切な配慮を行うことは、安全配慮義務の履行につながると同時に、「長く安心して働ける会社」としての採用力・定着率の向上に直結します。
図1:厚生労働省「国民生活基礎調査(何らかの疾患により通院しながら働く労働者の割合)」
実務で押さえるべき「5つの準備ステップ」
厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」に基づき、以下の5つのポイントを意識した環境づくりから始めましょう。
- 基本方針の表明と周知:まずは経営者が「病気になっても安心して働き続けられる職場を目指す」という姿勢を社内に発信しましょう。就業規則の冒頭や社内通知でこの方針を伝えることが、従業員の安心感(心理的安全性)を生みます。
- 相談窓口の明確化:「誰に相談すればよいか」をあらかじめ決めておきます。中小企業では産業医がいない場合も多いため、地域の産業保健総合支援センターの活用も有効です。
- 情報の取扱いルールの策定: 病状は極めて機微な個人情報です。「取得した情報は支援の目的以外に使わない」「本人の同意なく第三者に漏らさない」といったルールを定め、プライバシーを保護する仕組みを作ります。
- 柔軟な働き方の検討(制度設計):治療には通院や検査、療養のための時間が必要です。年次有給休暇だけでは足りないケースも多く、時間単位での有給取得、傷病休暇・積立休暇制度、短時間勤務、フレックスタイム制、テレワークなど、柔軟な働き方の選択肢を用意することが望ましいとされています。すべての制度を一度に導入する必要はありません。まずは自社の実態に合わせて、時間単位の年休取得や通院のための遅刻・早退を認めるといった小さな一歩から始め、従業員の状況に応じて拡充していくことが現実的です。中小企業だからこそ、柔軟な対応ができる強みを活かしましょう。
- 外部リソース・様式の活用:会社だけで判断しようとせず、主治医や専門機関と連携しましょう。厚生労働省が提供する「標準様式例*」を使うと、主治医への情報提供や意見聴取がスムーズになります。
*厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」
疾患別の留意事項とマニュアルの活用
病状や治療の特性は疾患ごとに異なるため、企業には「疾病別留意事項」に基づいた柔軟な対応が求められます。
- がん: 化学療法の副作用による倦怠感や吐き気への配慮(休憩の確保など)が必要です。
- 糖尿病: インスリン投与や食事療法の時間を確保できるよう、時間管理の柔軟性が求められます。
- 脳卒中・心疾患: 再発防止のための負荷軽減や、リハビリ通院への配慮が重要です。
特に、精神疾患による休業・復職対応の重要性が高まっていることを受け、令和7年(2025年)には「<治療と仕事の両立支援>メンタルヘルス不調者の主治医向け支援マニュアル」が新たに追加されました。これらを参考に主治医と連携することで、メンタルヘルス不調者の適切な就業継続サポートが可能になります。
事業主が利用できる公的支援と助成金
外部のリソースを活用することで、自社に専門知識がなくても効果的な支援を行うことができます。
- 産業保健総合支援センター(さんぽセンター) 各都道府県に設置されており、専門職である「両立支援コーディネーター」が、会社、労働者、医療機関の三者の間に入って調整支援を無料で行ってくれます。
- ハローワーク 「長期療養者就職支援事業」を通じて、病院と連携した就労支援や、採用・定着に関する相談を受け付けています。
- 団体経由産業保健活動推進助成金 中小企業が産業保健活動を行う際、事業主団体等を通じて財政的支援が受けられる制度です。中小企業特有のコスト負担を軽減するために有効な手段です。詳細は、助成金|JOHAS(労働者健康安全機構)でご確認ください。
まとめ
「治療と仕事の両立支援」は、「不測の事態が起きても、お互い様の精神でカバーし合える仕組み」を作ることです。4月の施行に向けて、まずは「相談窓口の決定」と通院しやすくなる「時間単位有休の検討」から始めてみてはいかがでしょうか。「病気を抱える社員」を負担として捉えるのではなく、経験豊かな「貴重な戦力」として支える仕組みを作ること。それが、結果として組織全体のエンゲージメントを高め、持続可能な経営へとつながります。貴社に最適な規定の作成や助成金の活用について、より詳しくお知りになりたい場合は、ぜひ一度ご相談ください。
【参考】厚生労働省「治療と仕事の両立について」