毎年11月は、厚生労働省の定める「過労死等防止啓発月間」とされており、過労死等を防止するための各種キャンペーン等が行われています。過労死等の原因は様々ですが、その原因の一つに「長時間労働」が挙げられます。本記事では、長時間労働者に対する医師の面接指導について解説します。
目次 1. 過労死等とは 2. 医師による面接指導の趣旨 3. 面接指導の対象となる労働者 4. 面接指導の流れ(※上記(1)に該当する労働者の場合) 5. 事後措置の実施 6. おわりに |
以前のブログ「過労死等を防止するには?事業者に求められる対策」でもご紹介した通り、「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳・心臓疾患や業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする死亡やこれらの疾患のことをいいます。
過労死等の原因として挙げられる「過重な負荷」を判断する要素は様々ですが、特に「労働時間」は重視され、事業者には適切な管理が求められています。
事業主は、長時間労働の削減に向けて、労働時間を正確に把握し、時間外・休日労働協定(36協定)の内容を労働者に周知し、週労働時間が60時間以上の労働者をなくすよう努める必要があります。
とはいえ、状況によっては長時間労働が発生することもあるでしょう。脳・心臓疾患の発症は、長時間労働との関連性が強いとする医学的知見を踏まえ、長時間労働により疲労の蓄積した労働者に対して、事業者は医師による面接指導を行わなければなりません。
面接指導とは、問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて必要な指導を行うことをいいます。長時間の労働により疲労が蓄積し、健康障害発症のリスクが高まった労働者について、その健康の状況を把握し、これに応じて本人に対する指導を行うとともに、その結果を踏まえた措置を講じるために行います。
面接指導の対象となる労働者は、以下(1)(2)(3)です。対象となる方が確実に面接指導を受けられるようにすることが大切です。
(1) 労働者(高度プロフェッショナル制度適用者を除く)
月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が認められる者で、面接指導を受けることを申し出た者
(2) 研究開発業務従事者
上記(1)に加えて、月100時間超の時間外・休日労働を行った者
(3) 高度プロフェッショナル制度適用者
一週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合のその超えた時間について月100時間を超えて行った者
図1で、面接指導の流れを確認しましょう。事業者は、労働者の労働時間を正確に把握し、時間外・休日労働が月80時間を超えた労働者に関する、作業環境、労働時間、深夜業の回数及び時間数等の情報を、産業医等に提供しなければなりません(図1の@)。また、労働者本人に対して、当該超えた時間に関する情報を通知しなければなりません(図1のA)。
産業医等は、労働者に対し面接指導の申出をするように勧奨します(図1のB)。なお、産業医を選任していない従業員数50人未満の小規模事業場では、地域産業保健センター(地さんぽ)において実施する、医師による面接指導を活用することができます。
労働者が申出をすると(図1のC)、事業者から労働者への面接指導の通知が行われます(図1のD)。労働者には、事前に「事前問診票(様式1)」と「働く人のための疲労蓄積度自己診断チェックリスト(様式2)」が配布され、これを記入して面接指導を受けます。面接指導を実施する医師は、産業医、産業医の要件を備えた医師等、労働者の健康管理を行える医師が望ましいとされています。面接指導では、労働者の勤務の状況、疲労の蓄積の状況、心身の状況について、医師から詳細に確認されます(図1のE)。
図1 長時間労働者への医師による面接指導について(出典:厚生労働省「過重労働による健康障害を防ぐために」)
医師による面接指導の実施後、事業者は、労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師の意見を聴かなければなりません(図1のF)。医師の意見聴取は、面接指導を実施した医師から、面接指導の結果の報告と併せて行うことが適当です。この面接指導の結果の記録は、5年間保存します。
事業者は、医師の意見を勘案して、必要と認める場合は適切な措置(例:就業場所の変更や作業の転換、労働時間の短縮や深夜業の回数の減少等)を講じなければなりません(図1のG)。面接指導により、労働者のメンタルヘルス不調を把握した場合は、必要に応じて精神科医等と連携をしつつ、対応を図ることが求められます。
今回は、医師の面接指導について解説しました。11月は「過労死等防止啓発月間」です。年末が近づき、何かと慌ただしくなり、長時間労働が増えているという職場もあるかもしれません。この機会に、労働時間の正確な把握ができているか、必要な労働者が医師の面接指導を確実に受けられているかを、しっかり確認しておきましょう。