作成日:2024/10/21
過労死等を防止するには?企業に求められる対策
2014年6月に過労死等防止対策推進法が成立してから、10年が経過しました。これまで「過労死等の防止のための対策に関する大綱」に基づき、様々な取り組みが行われてきましたが、この大綱が本年8月に変更されました。本記事では、企業に求められる過労死対策について解説します。
目次 1. 過労死とは? 2. 過労死等の現状 3. 「過労死等の防止のための対策に関する大綱」 4. おわりに |
「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳・心臓疾患や、業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする死亡や、これらの疾患をいいます。
「過労死」という言葉が社会的に注目されるようになったのは、1980年代後半からです。バブル経済の経済的な豊かさの陰で、労働者が突然、脳・心臓疾患で命を失うという悲劇が、多くの職場で発生しました。1988年(昭和63年)には、弁護士や医師などの専門家が中心となって「過労死110番」という相談窓口が設置され、1年間の相談件数は、約1,000件にも達したそうです。
過労死等の現状
先日、厚生労働省より公表された「令和6年版 過労死等防止対策白書」によると、2014年に過労死等防止対策推進法が成立して以降、働き方改革等の取組が進められた結果、長時間労働の雇用者割合は減少し、年次有給休暇取得率は増加するなど、一定の成果がみられています。
その一方で、過労死等事案による労災請求・支給決定件数は増加傾向にあり、令和5年度の「脳・心臓疾患」は216件(前年度194件)で、うち死亡は58件(同54件)、「精神障害」は883件(同710件)で、うち自殺(未遂を含む)は79件(同67件)となりました。
2014年に過労死等防止対策推進法が成立して以降、同法に基づき策定された「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(以下、「大綱」という)に基づいて、様々な取り組みが推進されてきました。この大綱は、おおむね今後3年間の取り組みについて定めるもので、本年8月に3回目の変更が閣議決定されました。変更の主なポイントについて確認していきましょう。
◇上限規制の遵守徹底
本年4月より、全ての事業所で時間外労働の上限規制が適用されています。また、商慣行・勤務環境等を踏まえた取組みとして、業種等の分野ごとの取組事項が示されました。
【トラック運送業】
・緊急増員したトラックGメンによる是正指導の大幅強化や「標準的運賃」の8%引き上げ改定により、取引環境の適正化に向けた取組を推進する。
・本年4月に、構造的な対策として、物流効率化や賃上げ原資確保のための適正な運賃導入を進める法律が成立したことを受け、同法の施行に向けて政省令等の整備を進める。
【医療従事者】
・医療機関の取組事例の周知や医療勤務環境改善マネジメントシステムの普及促進、都道府県医療勤務環境改善支援センター等による支援及び支援力強化等を進める。
・看護師に対するハラスメントを防止するとともに、夜勤負担を軽減し、働きやすい職場づくりを進める。
◇過労死等の再発防止指導
過労死等を発生させた事業場に対しては、監督指導または個別指導とともに、企業本社における全社的な再発防止対策の策定を求める指導を実施するとしています。
また、一定期間内に複数の過労死等を発生させた企業に対しては、企業の本社を管轄する都道府県労働局長から「過労死等の防止に向けた改善計画」の策定が求められ、同計画に基づく取組を企業全体に定着させるための助言・指導(過労死等防止計画指導)を実施するとしています。
◇フリーランス等が安心して働ける環境の整備
テレワーク、副業・兼業、フリーランスといった多様な働き方について、それぞれの労働環境の状況に応じた取組みが推進されます。特にフリーランスについては今年11月に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス新法)」が施行されることから、この周知と施行後の履行確保に取組むとしています。
◇調査・分析を充実
過労死等が多く発生している又は長時間労働等の実態があるとの指摘がある職種・業種(重点業種等)に、「芸術・芸能分野」を追加し、過労死等事案の分析や労働・社会分野の調査・分析を実施するとしています。
(※これまでの重点業種等:自動車運転従事者、教職員、IT産業、外食産業、医療、建設業、メディア業界)
また、過労死等の予防研究と支援ツール開発を一体的に実施し、調査研究の成果等について、ポータルサイト「
健康な働き方に向けて」を通じて公表するとしています。
◇国以外も含めた関係者による取組の推進
過労死等防止のためには、国の取組みとあわせて、事業主や労働者自身の取組みも重要です。「国以外も含めた関係者による取組の推進」の内容から一部を抜粋して紹介します。
【職場のハラスメントの防止・解決】
・カスタマーハラスメントについて、「職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」を踏まえ、企業の対策事例等の周知とともに、業種別のカスタマーハラスメント対策の取組支援を行う。 ・職場におけるハラスメント対策として、ポータルサイト「あかるい職場応援団」において、事業主等向けのハラスメント対策研修動画等のコンテンツを公開するなど周知・啓発を図る。
【事業主等の取組】
・事業主団体・経済団体は、会員企業等に対し過労死等防止のための必要な支援や情報提供に努める。
・労働者に対する労働関係法令の周知やハラスメント防止対策は事業主の責務であることを踏まえ、管理職等の上司や若年労働者自身に対する労働関係法令に関する研修等を通じて、過労死等やハラスメントの未然防止に努める。
【国民の取組】
・睡眠状況を始めとした生活スタイルを見直すなど、主体的に過労死等の防止のための対策に取り組むよう努める。
・発注者や消費者の立場として、働く方の長時間労働やメンタルヘルス不調等による過労死等を防止することについて理解と協力に努める。
◇過労死等防止対策の数値目標
大綱では、過労死等をゼロとすることを目指し、労働時間、勤務間インターバル制度、年次有給休暇、メンタルヘルス対策について、数値目標が設定されています。
労働時間については、2028年までに、週労働時間40時間以上の雇用者のうち、週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下とすることが掲げられています。特に、重点業種等のうち週労働時間60時間以上の雇用者の割合が高いものについて、重点的に取組を推進するとしています。
表2 労働時間、勤務間インターバル制度、年次有給休暇、メンタルヘルス対策についての数値目標
働き方改革等が進められた結果、長時間労働の減少、年次有給休暇取得率の増加などの一定の成果がみられていますが、過労死等による労災認定件数は増加傾向にあります。職場におけるメンタルヘルスやハラスメント防止対策の重要性は、近年さらに増しているといえるでしょう。過労死等に繋がる長時間労働やハラスメントを防止し、従業員が健康で長く働ける職場づくりを進めていきたいですね。