【2026年春闘・賃上げ最新分析】経常赤字でも3%超の賃上げ――中小企業が取り組むべき「人材確保」のための生き残り戦略
2026年の春闘が本格する中、中小企業を取り巻く経営・労務環境は大きな転換点を迎えています。本記事では、最新の賃上げ動向を分析し、中小企業が今取り組むべき戦略的対応について、社会保険労務士の視点から解説します。
2026年春闘の全体像:連合目標は「5%以上」
連合(日本労働組合総連合会)が2025年10月に発表した「2026春季生活闘争基本構想」では、前年に引き続き高い水準の目標が設定されています。
【2026年春闘 賃上げ目標】
- ベースアップ(賃上げ分):3%以上
- 定期昇給を含む総合的な賃上げ:5%以上
- 中小労組:格差是正として6%以上(定昇含む)を目安
2023年以降、日本の賃上げ率は2年連続で5%台を達成しており、約30年ぶりの高水準が継続しています。大手企業の多くは、物価上昇と企業業績の好調を背景に、労働組合の要求に対する「満額回答」が相次ぐとの予測が強まっており、今後発表される集中回答の結果が注目されています。こうした大手の先行する動きは、中小企業の採用市場にもダイレクトに影響します。優秀な労働力の流出を防ぎ、人材を確保するためにも、中小企業への賃上げ圧力は例年以上に高まっていくことが予想されます。
最新データが示す「労働力確保」を優先した賃上げの実態
商工中金が2026年1月に公表した「中小企業の賃上げの動向について(詳細版)」によれば、中小企業の賃上げ判断基準が「収益力」から「労働力の維持・確保」へとシフトしている実態が明らかになりました。
【経営状況別・2025年賃上げ率の実態】
- 経常赤字企業: 3.07%
- 経常利益率0~2%未満: 3.14%
- 経常利益率5%以上: 3.64%
注目すべきは、赤字企業の約6割が全従業員を対象に賃上げを実施している点です。「利益が出たから還元する」という従来の考え方から、「賃上げを行わなければ人材を維持できず、事業継続に支障をきたす」という、防衛的な賃上げが一般化しています。
最低賃金の引き上げと「賃金カーブ」への影響
2025年10月から施行された最低賃金は、全国加重平均で1,121円となり、前年比6.3%(66円)の引き上げとなりました。これは過去最高の上昇率です。さらに注目すべきは、全都道府県で最低賃金が1,000円を超えたことです。東京・大阪などの大都市圏は63円の引き上げでしたが、最低賃金が低水準にある地方では、熊本82円、大分81円、秋田80円と、目安を大きく超える大幅な引き上げが行われました。政府の「2020年代に1,500円」という目標に向け、今後も年率5〜6%の引き上げが予想されます。ここで課題となるのが、「賃金体系の歪み(賃金カーブのフラット化)」です。
【課題】
- 初任給と中堅社員の逆転・接近: 最低賃金の急騰により、若手と30〜40代の給与差が縮小。
- ベテラン層のモチベーション低下: パート社員の間で、経験に関わらず時給が横並びになる傾向。
単なる金額の底上げではなく、役割や職務に基づいた「賃金体系の再設計」が、今まさに求められています。
2026年2月に着手すべき「5つの実務タスク」
新年度に向け、今月中に優先して進めたい実務は以下の通りです。
- 昇給シミュレーションの実施: ベア3%・5%等の複数パターンで、人件費および社会保険料の負担増を試算。
- 2027年卒の初任給決定: 3月のナビサイト公開に向け、競合他社と比較した際の「採用競争力」を再確認。
- 人事評価のフィードバック: 賃上げの背景や根拠を丁寧に説明し、従業員の納得感を醸成する。
- 36協定の再締結準備: 4月起算日の企業は、過半数代表者の選出を2月中に完了させる。
- 労働条件通知書の再点検: 2024年改正の「就業場所・業務の変更の範囲」明示に漏れがないか確認。
社会保険労務士が提案する「持続可能な賃金戦略」
賃上げをコスト増だけで終わらせないために、以下を並行して進めることを推奨します。
- 人材流出コストの再認識:離職者が1人出た際の採用・教育コスト(年収の約50〜100%)と、賃上げに必要な原資を比較検討する。
- 助成金の戦略的活用:「業務改善助成金」や「キャリアアップ助成金」を活用し、設備投資とセットで賃上げを行う。
- 賃金以外の処遇の充実:賃金だけでなく、福利厚生、キャリアパス、働きやすい環境など、総合的な処遇の充実を図る。
- 価格転嫁と生産性向上:労務費の適切な価格転嫁に向けたエビデンス整備と、DX活用による労働生産性の向上。
まとめ:2026年は「未来への投資」としての賃上げへ
2026年の春闘・賃上げは、中小企業にとって戦略的な対応が求められる局面です。経常赤字でも3%超の賃上げを実施する企業が増える中、企業ごとの対応力格差が顕著になっています。これは「試練」であると同時に、経営効率化を進める「機会」でもあります。人材が最も希少な経営資源となった現代、賃上げを「コスト」ではなく「戦略的投資」と捉え、持続可能な人事戦略を構築することが、企業の生き残りに直結するのです。2月は新年度に向けた重要な準備期間です。人事評価、昇給額試算、36協定締結、初任給設定など、やるべきことは多くあります。これらの取り組みが、従業員の安心と信頼、そして企業の持続的成長につながることを忘れずに進めましょう。賃上げ原資の確保や、現行の賃金体系の修正にお悩みの経営者様、人事労務担当者担当者の方は、お気軽にご相談ください。貴社の財務状況に寄り添い、共に最適な「人材戦略」を構築してまいりましょう。
【参考資料】
日本労働組合総連合会「2026春季生活闘争基本構想」
商工中金「中小企業の賃上げの動向について(詳細版)」
厚生労働省「最低賃金制度」
産労総合研究所「2025年度 決定初任給調査」
内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2025」