我が国では、2020年頃からの新型コロナウイルス感染症の流行により「テレワーク」を導入する企業が広がりました。時間や場所にとらわれない仕事のスタイルは、一見、メリットが多そうにも思えますが、近年ではテレワークを廃止し、オフィス回帰を進める企業が増えています。その背景には「従業員のメンタルヘルスに与える影響」への懸念もあると言われています。
この記事では、テレワークがメンタルヘルスに与える影響とその対策について考察します。
| 目次 1. テレワークとは 2. テレワークのメリットとデメリット 3. テレワークにおけるストレスとは? 4. テレワークにおけるメンタルヘルス対策 5. おわりに |
テレワークとは「ICT(情報通信技術)」を活用した、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方のことです。テレワークを「働く場所」という観点から分類すると、自宅で働く「在宅勤務」、本拠地以外の施設で働く「サテライトオフィス勤務」、移動中や出先で働く「モバイル勤務」があります。
図1 テレワークの区分
(出典:厚生労働省・総務省 テレワーク総合ポータルサイト「テレワークとは」)
民間企業における労働者を対象とした、あるパネル調査では、新型コロナウイルス感染症の問題が発生する前の通常月では、7割超が在宅勤務・テレワークを実施していないと回答していました。一方、新型コロナウイルス感染症の流行後の令和3年6月時点では、在宅勤務・テレワークを週1日以上行っている労働者の割合は、約6割となりました。
テレワークは、育児や介護、プライベートとの両立がしやすいなどのメリットがあります。在宅勤務と半日休暇(時間単位休暇)を組み合わせれば、子供の学校行事への参加や、役所の手続きなども行いやすくなります。毎日の通勤時間がなくなれば、自分の時間も確保しやすいかもしれません。
テレワークは、適切に導入・運用することができれば、生産性の向上や従業員のワークライフバランスの向上、多様な人材の確保等にも繋がります。
一方で、テレワークによる「好ましくない影響」も指摘されています。テレワークが適切に導入・運用されていない場合、長時間労働、コミュニケーション不足の問題が生じやすいです。また、労働者の様子が見えづらいため、それらの問題を会社が把握するまでに、時間がかかってしまうことがあります。
国際労働機関(ILO)と世界保健機関(WHO)が2022年に発表した共同レポートによれば、在宅勤務を常態化した労働者は、仕事と生活の境界が曖昧になることで、ストレスや不安、燃え尽き症候群のリスクが高まると報告されています。
厚生労働省の「テレワークにおけるメンタルヘルス対策のための手引き」によれば、テレワーク下におけるストレス要因の例として、以下が挙げられています。
【職場におけるストレス要因例】
◇対人関係
:上司や同僚との何気ない会話や相談がしづらくなり、悩みを抱え込み、孤独感や孤立感を感じる。特に、職場の人間関係が十分に構築できていない新入社員や異動者は、不安やストレスを感じる。
◇職場環境(物理的要因)
:自宅のパソコンや周辺機器等の作業環境が整っていないため、集中力や作業効率の低下により、ストレスを感じる。
◇仕事の量的な負担
:お互いの働き方が見えづらいため、役割分担が不明確になり、業務に偏りが生じる。労務管理が難しいため、長時間労働に気付きにくくなる。
◇適性度
:ICTに苦手意識がある、ツールをうまく活用できない等で、テレワーク自体にストレスを感じる。
◇職場環境(心理社会的要因)
:業務時間外にメールや電話の対応を要求された、上司から過度な監視を受けた等のハラスメントの発生がある。
【職場以外の要因例】
◇家庭環境
:テレワークに家族の理解が得られず、ストレスを感じる。
◇ワークライフバランス
:いつまでも業務を行うことができるため、仕事とプライベートの区別があいまいになってしまう。
【個人的な要因例】
◇生活習慣、体調管理
:通勤や外出がなくなることで、運動不足になる。生活リズムが不規則になり、食事や睡眠が十分に取れない。
テレワークにおけるストレス要因や、有効なメンタルヘルス対策は、会社によって様々です。労働者がどのようなことにストレスを感じているのか、まずは実態を確認した上で、対策を進めることが大切です。
<対策例>
1.オンラインでの雑談の導入
日常的な雑談は、孤独感を軽減し、ストレス緩和につながる効果が期待できます。会社は、オンラインでの雑談やチャットの時間を設けるなど、形式的でない交流を促すことが効果的です。
2. 自宅近くのシェアオフィスの活用
「完全な在宅」か「完全な出社」の二択ではなく、自宅近くのシェアオフィスやサテライトオフィスを利用することで、移動の負担を抑えつつ環境を切り替えることができます。
3. 業務の進捗の確認と心理的ケア
テレワークの労働者は「仕事のやり方がわからない」「対面でないので質問や相談がしにくい」といった不安を抱えていることがあります。
「何か困っていることはありませんか?」などのメッセージを送り、労働者の心理的ケアを行うことも効果的でしょう。
ウィズコロナ・ポストコロナの働き方として広まった「テレワーク」。時間や場所にとらわれず、柔軟に働くことができるテレワークは、魅力的な働き方の一つです。一方で、仕事と私生活の切り替えが難しいことや、コミュニケーション不足等の問題により、メンタルヘルスに与える影響も指摘されています。「テレワーク総合ポータルサイト」やガイドライン等を参考に、従業員の健康に留意しながら、テレワークを行いましょう。