近年、「タイミー」や「シェアフル」などに代表される「スポットワーカー」(単発アルバイト)サービスを活用する企業が急増しています。人手不足の中、繁忙期や突発的な欠員対応に柔軟に対応できるこの仕組みは、中小企業にとって魅力的かもしれません。その一方で、「単発のアルバイトだから」と軽視すると、労務トラブルや法令違反に繋がりかねません。スポットワーカーの労働力を活用する上で、特に注意すべきポイントを解説します。
会社がスポットワーカーを使用する場合、労働基準法に基づき、賃金・労働時間・業務内容・就業場所などの労働条件を記した「労働条件通知書」を書面または電子で交付する義務があります。
また、合意した労働条件(例:「時給1,250円・6時間・接客販売業務」)を、後から一方的に変更することはできません。
スポットワーカーの労働時間も、他の労働者と同様に適切に管理しなければなりません。例えば、法定通りの休憩時間(6時間を超える場合に少なくとも45分、8時間を超える場合に少なくとも1時間)を与える必要があります。時間外労働、深夜労働などが発生した場合には、法律に従って割増賃金の支払義務も生じます。
特に、継続的に同一人物を利用したり、掛け持ちの労働者を雇用したりする場合には、法定労働時間を超えていないか注意する必要があります。
初めて勤務する労働者には、トイレの場所や休憩室の利用方法の案内が必要です。就業に際しては、適宜マニュアルなどを用いて業務内容や作業場の注意点を説明し、事故防止に努めましょう。通常の労働者を使用する場合と同様に、事業主には安全配慮義務があります。
また、スポットワーカーも、労働者災害補償保険(労災保険)の対象です。万一、業務上のケガや病気が発生した場合には、通常の従業員と同様に労災手続きを行う必要があります。
毎年6月から7月10日までの間には、労災保険の「年度更新」の手続きがあります。労災保険料は、年間の賃金の合計額に所定の率を掛けて計算されます。もしスポットワーカーが1日だけの勤務であったとしても、労働者として使用したのであれば、臨時労働者として年度更新の対象に含まれます。賃金集計の際、スポットワーカーに支払った賃金を計算に含めることも忘れないようにしましょう。
スポットワーカーは単発勤務が多いため、多くの場合は、社会保険や雇用保険の加入要件を満たさないことが多いようです。ただし、同一人物を継続的・反復的に雇用し、一定の労働時間を超える場合には、加入要件を満たすことがあるので、加入漏れが起こらないように管理する必要があります。
短期の就業であっても、業務内容によっては、スポットワーカーが顧客情報や企業の営業秘密情報に触れる可能性があります。業務上知り得た情報が、個人のアカウントからSNSに流出するなどのリスクも考えられます。情報漏洩を防ぐため、守秘義務の誓約書を取り交わす、業務範囲の明確化や情報の閲覧権限を設定するなども検討しましょう。
一部でスポットワーカーを「業務委託契約」と誤解しているケースが見られますが、実態は雇用契約です。業務内容や勤務時間を指定し、使用者の指揮命令下で働かせる以上、労働者としての扱いが必須です。委託契約的な扱いをしてしまうと、偽装請負と判断されるリスクがあります。
おわりに
近年広がりつつあるスポットワーカーは、必要なときに労働力を確保できる便利な仕組みですが、面接や入社手続きなどの手間を省ける反面、労務管理が曖昧になりやすい点に注意が必要です。一方で、法令を遵守しつつ、柔軟にスポットワーカーを活用できれば、人手不足対策として有効だという意見もあります。
スポットワーカーの活用を考えている場合は、あらかじめ必要な対応を確認し、受け入れ態勢を整えておくことが重要です。