目次 1.「静かな退職」とは? 2.「静かな退職」が周囲に与える影響 3. 会社がとるべき実践的な対策 4. おわりに |
「静かな退職」(Quiet Quitting)とは、与えられた仕事はこなすものの、それ以上の努力や、創意工夫、会社への貢献を避ける、いわば「必要最低限の働き方」を指す概念です。
このような働き方は、近年急に増えてきたというわけではなく、国内外で昔から一定程度は存在したと考えられます。しかし、最近になって「静かな退職」という言葉が用いられる機会が多くなり、その存在をどのように受け止めるべきか、社会全体で議論が行われるようになりました。
今年、リクルートマネジメントソリューションズは、全国の従業員規模50名以上の企業に勤める正社員7,105名(25〜59歳)を対象に「第2回 働く人の本音調査2025」を実施しました。この調査で「自分の同僚や上司に『静かな退職』をしている人がいるか」を尋ねたところ、27.7%、つまりおよそ4人に1人が「いる」と回答しました。
当事者ではなく、あくまで周りの人から見ての印象ですが、様々な人が集まる職場には、一定の割合で存在する現象といえるのかもしれません。
一見すると、最低限の仕事をこなしている「静かな退職」は、大きな問題ではないようにも見えます。本人にとっては、燃え尽きを防ぐための自衛的な行動かもしれません。では、周囲で働く人にとってはどうでしょうか。
上記の調査では、静かな退職者が周りにいることによって、どのような影響があったかも尋ねています。「自分の同僚や上司に『静かな退職』をしている人がいることで生じた不利益はありましたか」という設問(選択式)では、「仕事量が増えた」「モチベーションが下がった」が多く選択されました。静かな退職者が仕事をしないことによって、チーム内での他の人の業務負担が増えたり、それにもかかわらず給料が上がらない、などの不公平感があるようです。
その一方で、周囲に静かな退職者がいることは、マイナス面ばかりともいえないようです。「自分の同僚や上司に『静かな退職』をしている人がいることで生じた恩恵はありましたか」という設問(選択式)では、「相対的に自分の評価が上がった」「業務の効率化が進んだ」が多く選択されました。相対評価によって周囲の人が高い評価を受けた、やらなくてもよいことをやらずに済むようになった、というプラスの意見もみられました。
「働きアリの法則」などと昔から言われているように、多くの人が集まる組織では、「静かな退職」のようなことも起こりがちです。ある意味では、静かな退職の発生は自然なことなのかもしれません。
とはいえ、会社にとっては、業務改善や新しい提案が生まれにくくなり、将来的な競争力が低下するリスクがあります。また、そのような状況を放置していれば、やがて第二、第三の「静かな退職者」が出てしまうかもしれません。会社としては、何らかの対策をとる必要があるでしょう。
静かな退職に至った原因は人それぞれですが、例えば、以下のようなものが考えられます。
<静かな退職の原因(一例)>
・評価、給与の頭打ち感
:「この先も昇進は期待できないだろう」「給料は大して上がらないだろう」等
・過度な期待と業務の偏り
:「自分にばかり業務が集中し、誰も助けてくれない」「自分は貧乏くじを引かされている」等
・未来が見えないことへの失望
:「この会社にいても成長のチャンスがない」「仕事内容に意義を見出せない」等
これらに共通しているのは、「諦め」や「マンネリ感」によるモチベーションの低下です。静かな退職を防ぐためには、仕事の内容に変化を与えたり、仕事の分担を見直したり、評価基準の見直しを検討するなど、何らかの「刺激」を与えることが必要なのかもしれません。
また、先ほどご紹介した調査では「周囲に静かな退職者がいる環境でも、良い状態で働くことができる条件」についても調査されています。それによると、周囲に静かな退職者がいても、会社に「成長を支援されている実感がある人」「正当に評価されている実感がある人」は、相対的に幸福感が高いという結果でした。この結果は「静かな退職」への対応を考える上で、大いに参考になるのではと思います。
近年よく耳にするようになった「静かな退職」。一応、最低限の仕事はこなしているとは言え、会社や周囲に与える影響は決して無視できないものです。
会社としては、従業員が「静かな退職者」とならないよう、職場の状況を把握し、必要に応じて、仕事内容や評価基準の見直しを行いましょう。既に「静かな退職者」が発生しているという状況では、周囲の従業員へのサポート体制があるか、正当に評価できているかに注意するとよいでしょう。