我が国では毎年、熱中症による死傷者が発生しています。職場における熱中症対策の強化のため、本年6月1日より改正労働安全衛生規則が施行されることになりました。本記事では、熱中症による死傷災害の状況と、今回の改正で新たに義務化される事項について紹介します。
目次 1. 熱中症による死傷災害の状況 2. 死亡災害の分析 3. 新たに義務化される事項 「体制整備」「手順作成」「関係者への周知」 4. 職場における対策 5. おわりに |
近年、温暖化などの影響で猛暑日が増加し、屋外作業や高温環境下作業による熱中症の発生リスクが高まっています。
熱中症とは、高温多湿な環境下で、発汗による体温調節等がうまく働かなくなり、体内に熱がこもった状態をさします。屋外だけでなく室内で何もしていないときでも発症し、場合によっては死亡することもあります。
厚生労働省から公表されている「令和6年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況」によると、2024年の職場での熱中症による死傷者(死亡・休業4日以上)は、1,195人でした(前年1,106人)。過去10年間の推移は下表のようになります。
業種別では、建設業、次いで製造業で多く発生しています。また死亡者数は30人で、業種別では建設業が最多(8人)でした。
2024年の死亡災害についての概要は、以下の通りでした。
【死亡災害全体の概要】
・総数は30件で、被災者は男性27件、女性3件であった。
・発症時、緊急時の措置の確認、周知をしていたことを確認できなかった事例が21件あった。
・暑さ指数(WBGT)の把握を確認できなかった事例が26件あった。
・熱中症予防のための労働衛生教育の実施を確認できなかった事例が15件あった。
・糖尿病、高血圧症など熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病や所見を有している事が明らかな事例は18件あった。
同省の分析によると、熱中症による死亡災害のほとんどが、初期症状の放置や対応の遅れが原因とされています。熱中症を重篤化させないためには、初動対応を適切に行うことが必要となります。
このような状況を受けて、2025年6月より、事業者には以下の事項が義務付けられることとなりました。対象となるのは、「WBGT28度または気温31度以上の作業場において行われる作業で、連続1時間以上または1日4時間を超えて実施」が見込まれる作業とされています。これは業種や作業内容、屋内外を問いませんが、主に建設業や警備業、高温の工場内作業、外回りの営業などが想定されます。
1. 報告体制の整備
「熱中症の自覚症状がある作業者」や「熱中症のおそれがある作業者を見つけた者」がその旨を報告するための体制整備及び関係作業者への周知が義務付けられます。
2.実施手順作成
熱中症のおそれがある労働者を把握した場合に、迅速かつ的確な判断が可能となるよう、以下の手順の作成、関係者への周知が義務付けられます。
@ 事業場における緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先および所在地
A 作業離脱、身体冷却、医療機関への搬送等熱中症による重篤化を防止するために必要な措置の実施手順
厚生労働省のポータルサイト「職場における熱中症予防情報」では、動画コンテンツや、事業主、安全・衛生管理担当者、現場作業者向けの資料などが公開されていますので、職場でぜひ活用するとよいでしょう。
◇具体的症状や初動対応の周知
現場の労働者が「熱中症の可能性」にいち早く気づくためには、具体的症状(顔色や発汗などの客観的な症状、自覚症状)の周知が効果的です。イラストなどを交えたポスターを掲示し、「熱中症の症状」と「必要な初動対応」について周知しましょう。
◇熱中症対策のチェックリスト
厚生労働省では、職場における熱中症予防対策を徹底するため、労働災害防止団体などと連携し、5月から9月まで、「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を実施しています。チェックリスト等を活用して、早めに熱中症対策の準備を進めましょう。
◇初動対応の確認
効果的な体の冷やし方、水分補給、暑さを避けることのできる避難場所の周知、医療機関や現場責任者などの連絡先情報など、初動対応をしやすくするために必要な情報を事前確認し、周知しておきましょう。
◇労働環境(設備)の見直し
暑さが一定基準以上となる場合は、休憩の頻度を増やす、冷房設備を増やす、塩分・水分補給の設備を設置するなど、労働環境の整備も検討しましょう。
職場での熱中症により、全国で年間約30人の方が亡くなっています。熱中症を防ぐため、ポスター等を利用して職場で十分な注意喚起を行うとともに、それぞれの職場環境に応じた対策を取ることが重要です。月別に見ると、7月、8月は熱中症が多くなりますが、それ以外の月でも発生します。「まだ暑くないから…」と油断せず、早めに職場の熱中症対策を進めていきましょう。