目次 1. はじめに 2. 典型的な不適正管理の例 3. 労働時間とは 4. 労働時間の適正な把握 5. 賃金請求権の消滅時効期間 6. おわりに |
労働基準法において、会社は労働者の労働時間を適切に管理する義務を負うとされています。労働時間の管理が不適切だと、過重労働による健康被害や、未払い残業代等の問題にも繋がります。
厚生労働省では、昨年秋に「労働時間を適正に把握し正しく賃金を支払いましょう」というリーフレットを公開し、注意喚起を行いました。労働時間の把握に関する法律上のルールについて解説します。
同リーフレットでは、労働時間の不適切な管理の例として、3つの事例が挙げられています。以下、順番に紹介していきます。
@ 勤怠管理システムの端数処理機能を使って労働時間を切り捨てている
勤怠管理システムには「端数処理機能」が付いていることがあります。この機能を使い、労働時間のうち、一定の時間に満たない時間(例:15分に満たない時間)を一律に切り捨て(いわゆる「丸め処理」)、その分の賃金を支払わない行為は、労働基準法違反となります。労働時間は1分単位で管理しなければなりません。
ただし、この端数処理には例外があります。1ヶ月における時間外労働、休日労働および深夜労働の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げることは、認められています。
A 一定時間以上でしか残業申請を認めない
一定の時間(例:30分)に満たない時間外労働の時間について、残業としての申請を認めないことや、残業時間の切り捨てを行い、切り捨てた残業代を支払わない行為は、違法となります。
図1 ワンポイントアドバイス(端数処理の例外等)(※)
B 始業前の作業を労働時間と認めない
出勤打刻前に作業(制服への着替え、清掃、朝礼など)を義務付けているにも関わらず、その作業を、労働時間として取り扱わない等の行為も違法となります。
職場によっては、始業時刻前の掃除、朝礼、会社が指定した作業着への着替えが行われる場合もあるでしょう。それらの時間は労働時間と判定される可能性が高いといえます。
労働時間とは、使用者(=会社)の指揮命令下に置かれている時間のことをいいます。使用者の明示または黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は、労働時間に該当します。例えば、次のような時間は労働時間です。
図2 労働時間とは(※)
労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、会社には労働時間を適正に把握する責務があります。会社は、労働時間の適正な把握のため、以下の措置を講じる必要があります。
◇始業・終業時刻の確認及び記録
会社は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業時刻・終業時刻を確認し、これを記録しなければなりません。記録する方法にはいくつかありますが、原則として「客観的な記録」を用いることが求められています。
図3 始業・終業時刻の確認および記録(※)
◇賃金台帳の適正な調製
賃金台帳には、労働日数、労働時間数、時間外労働時間数等の事項を適正に記入しなければなりません。
図4 賃金台帳の適正な調製(※)
(※図1〜4の出典:リーフレット「労働時間を適正に把握し正しく賃金を支払いましょう」)
賃金請求権の消滅時効期間(労働者が未払いの賃金を請求できる期間)は、以前は2年でしたが、現在の法律では5年(当分の間は3年)とされています。未払い賃金が毎月積み重なると、それなりに大きな金額になってしまうかもしれません。日頃から労働時間の管理を適正に行い、毎月の給与の計算、支払いを正しく行うことが重要といえるでしょう。