作成日:2024/11/08
公益通報者保護法の概要について
ある都道府県の知事によるパワハラ告発問題について、知事が行ったとされる通報者特定のための行動が、公益通報者保護法に違反するのでは?との疑惑が話題となっています。企業経営にも関連する「公益通報者保護法」の概要について解説します。
目次 1. 公益通報者保護法とは 2. 法律が生まれた経緯 3. 公益通報として保護される要件 4. 保護の内容 5. 2022年の法改正 6. おわりに |
公益通報者保護法とは
国民生活の安全・安心を損なうような企業不祥事は、事業者内部の労働者等からの通報をきっかけに明らかになることも少なくありません。こうした企業不祥事による国民への被害拡大を防止するために通報する行為は、正当な行為として、事業者による解雇等の不利益な取扱いから保護されるべきものです。
「公益通報者保護法」は、労働者等が、公益のために通報を行ったことを理由として解雇等の不利益な取扱いを受けることのないよう、どこへどのような内容の通報を行えば保護されるのかという制度的なルールを明確にするものです。
公益通報者保護法は、どのような経緯で生まれたのでしょうか。2000年頃、食品偽装や自動車会社のリコール隠しといった企業による不祥事が、いわゆる「内部告発」をきっかけとして明るみになり、大きく報道されました。一方で、内部告発した社員が解雇や降格など社内で不利益な取り扱いをされることも問題となりました。このような事態を受けて、2004年に「公益通報者保護法」が制定され、2006年から施行されています。
公益通報として保護されるには、要件があります。どのような通報でも全てが公益通報として保護されるわけではありません。以下で要件について解説します。
◇通報する人
公益通報の主体となるのは「
労働者」「
退職者」「
役員」です。
労働者 |
労働基準法第9条に規定される労働者。正社員、派遣労働者、アルバイト、パートタイマーなどのほか、公務員も含まれる。 |
退職者 |
通報の日前1年以内に雇用元(勤務先)で働いていた労働者であった者又は通報の日前1年以内に派遣先で働いていた派遣労働者であった者。 |
役員 |
法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人のほか、法令の規定に基づき法人の経営に従事している者(会計監査人を除く。)。 |
なお、取引先事業者の労働者・退職者・役員については、役務提供先である事業者の労働者等には当たりませんが、次の場合には公益通報の主体となります。
労働者・退職者 |
現に請負契約その他の契約に基づく事業に従事し、又は通報の日前1年以内に従事していた場合。 |
役員 |
現に請負契約その他の契約に基づく事業に従事する場合。 |
◇通報の内容
公益通報できる内容は、通報者の役務提供先(勤務先など)に関するもので、かつ、対象法律に根拠規定がある「通報対象事実」です。
通報対象事実とは、本法及び個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律として別表に掲げるもの(これらの法律に基づく命令を含む。以下同じ。)に規定する罪の犯罪行為の事実又は本法及び同表に掲げる法律に規定する過料の理由とされている事実、または最終的に刑罰もしくは過料に繋がる行為のことです。
<別表に掲げられている法律>
・刑法・食品衛生法 ・金融商品取引法 ・日本農林規格等に関する法律
・大気汚染防止法 ・廃棄物の処理及び清掃に関する法律
・個人情報の保護に関する法律
・前各号に掲げるもののほか、個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律として政令で定めるもの(※順次追加されています)
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◇通報の目的
不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的で通報した場合は、公益通報にはなりません。
◇通報先
公益通報の通報先としては、以下の1⃣から3⃣の3つが定められています。また公益通報者保護法に基づく保護を受けるための要件は、通報先によって異なります。
1⃣役務提供先(勤務先など)
通知対象となる事実が生じ、または生じようとしていると思料すること
2⃣行政機関(省庁、地方自治体など)
(1)または(2)のいずれかに該当すること
(1)通知対象となる事実が生じ、または生じようとしていると信じるに足りる相当の理由があること
(2) 通知対象となる事実が生じ、または生じようとしていると思料し、かつ、通報者の氏名住所などを記載した書面を提出すること
3⃣報道機関等(マスコミや消費者団体など)
通知対象となる事実が生じ、または生じようとしていると信じるに足りる相当の理由があり、かつ、(1)〜(6)のいずれかに該当すること
(1)事業者内部(役務提供先等)又は行政機関に公益通報をすれば、解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由があること
(2)事業者内部(役務提供先等)に公益通報をすれば、通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由があること
(3) 事業者内部(役務提供先等)に公益通報をすれば、役務提供先が通報者について知り得た事項を、通報者を特定させるものであると知りながら、正当な理由がなくて漏らすと信ずるに足りる相当の理由があること
(4)役務提供先から事業者内部(役務提供先等)又は行政機関に公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求されたこと
(5)書面により事業者内部(役務提供先等)に公益通報をした日から20日を経過しても、通報対象事実について、当該役務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該役務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わないこと
(6) 個人の生命若しくは身体に対する危害又は個人の財産(事業を行う場合におけるものを除く。)に対する損害(回復することができない損害又は著しく多数の個人における多額の損害であって、通報対象事実を直接の原因とするものに限る。)が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由があること
要件を満たして公益通報をした場合、それを理由とする解雇や解任は無効となります。減給やその他不当な取り扱いもできません。また、公益通報によって損害を受けた場合も、会社は公益通報者に損害賠償請求はできません。
2022年6月1日から、従業員数300人以上の大企業で「通報窓口の設置」「公益通報対応業務従事者の指定」などが義務化されました。公益通報対応業務従事者(内部通報受付窓口の担当者や責任者)には守秘義務があり、これに違反した場合には30万円以下の罰金が科せられます。
<守秘義務違反の例>
昨今のニュース等の報道で「公益通報制度」が注目されるようになりました。公益通報をされる事態にならないよう、法律を遵守した企業活動を行っていくことが大切ですが、通報があった場合に適切な対応ができるよう、制度の概要について把握しておくことをおすすめします。