先日、令和6年版「厚生労働白書」が公開されました。本記事では、厚生労働白書の第1部「こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる社会に」から、働く人の「こころの健康」に関する内容を抜粋してご紹介します。
目次 1. 厚生労働白書とは 2. 「こころと健康」とは何か 3. こころの健康を取り巻く環境 4. 働く人を取り巻くストレスの現状 5. 働く人のこころの健康を守るための取り組み 6. おわりに |
「厚生労働白書」は、厚生労働行政の現状や今後の見通しなどについて、広く国民に伝えることを目的にとりまとめられています。厚生労働省のウェブサイトにある「統計情報・白書」のページからダウンロードできるほか、政府刊行物取扱書店等でも購入できます。
先日、令和6年版「厚生労働白書」が公開されました。厚生労働白書は、「第1部」と「第2部」の2部構成になっています。
その年ごとのテーマを設定している第1部では、「こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる社会に」と題して、こころの健康を損ねる背景にある「ストレス要因」に着目し、幼年期から老年期までに至るライフステージに沿って、現代社会におけるストレスの多様さについて考察した上で、こころの健康に関する対策や支援の現状と、今後の方向性を提示しています。
第2部では、「現下の政策課題への対応」と題し、子育て、雇用、年金、医療・介護など、厚生労働行政の各分野について、最近の施策の動きをまとめています。
厚生労働白書では、「こころの健康」(=メンタルヘルス)を、「人生のストレスに対処しながら、自らの能力を発揮し、よく学び、よく働き、コミュニティにも貢献できるような、精神的に満たされた状態」と定義しています。
こころの健康をめぐる現状には、課題も多くあります。近年、精神疾患による外来患者数は増加傾向にあり、自殺者数も年間2万人を上回り続けています。こころの健康は、年代・性別・職業などにかかわらず全ての人に関係する、社会における大切なテーマの一つです。
私たちは、生まれてから老いに至るまでのライフステージ全般において、様々な出来事を経験します。大きなライフイベントだけでなく、些細な日常の出来事でも、それらが重なったり続いたりすることで、体調に影響を及ぼすと考えられています。また、受け止める人によりストレスの性質が異なり、その影響も個々人により異なることがあります。
図1 現代社会におけるストレス要因(※)
本記事では、厚生労働白書「第1部」の内容から、特に「働く人」の「こころの健康」に関連する部分をご紹介します↓↓↓
「働きがい」と「働きやすさ」が実現できる職場環境は、こころの健康を高め、支える観点から重要です。一方で、職場環境の整備や雇用管理が不十分な場合には、就業が「こころの不調」をきたすストレス要因となり得ることに注意が必要です。
◇どのようなことでストレスを感じているか
2022(令和4)年に行われた「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、仕事や職業生活に関することで「強い不安、悩み、ストレス」を感じている労働者の割合は、82.2%でした。
ストレスの内容を年代別にみると、20歳未満から40歳代までは、「仕事の失敗、責任の発生等」が最も高く、次いで「仕事の量」となっています。
一方、50歳代は「仕事の量」が最も高く、次いで「仕事の失敗、責任の発生等」が高くなっています。
表1 年齢階級別にみた仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスの内容別労働者割合(主なもの3つ以内)(※)
◇仕事の量の多さは長時間労働に繋がることも多い
仕事の量の多さは、労働時間の長さとして現れる場合も少なくありません。労働時間が長くなると、うつ病・不安障害の疑いがある人の割合が増加する傾向がみられます。
表2 一週間当たりの実労働時間別 うつ傾向・不安(就業者調査)(※)
また、労働時間が長くなるにつれ、翌日への疲労の持ち越し頻度が増加します。それに伴って、うつ病・不安障害の疑いがある人の割合が増加する傾向もあります。
表3 疲労の持ち越し頻度別 うつ傾向・不安(就業者調査)(※)
これらの結果から、長時間労働による疲労の蓄積は、こころの不調に繋がると考えられています。
◇労働時間が長いと睡眠時間を確保しづらい
1日の時間は有限であるため、労働時間の長さは、睡眠時間の確保にも悪い影響を与えます。2022年「国民生活基礎調査」によると、うつ傾向・不安の点数が「0〜4点」(=うつ傾向でない)の人の割合は、睡眠時間が「7時間以上8時間未満」の場合に最も高く、睡眠時間が「5時間未満」の場合に最も低いという結果でした。