2024年5月10日、雇用保険適用拡大や教育訓練給付拡充などが盛りこまれた「雇用保険法等の一部を改正する法律」が参議院本会議で可決・成立しました。雇用保険適用拡大や教育訓練給付拡充などが盛りこまれた改正の概要について解説します。
改正のポイント 2.教育訓練やリ・スキリング支援の充実 3.育児休業給付に係る安定的な財政運営の確保 4.その他雇用保険制度の見直し |
雇用労働者の中で、働き方や生計維持の在り方の多様化が進展していることを踏まえ、雇用のセーフティネットを拡げる必要があることから、雇用保険の被保険者の要件のうち、週所定労働時間が「20時間以上」から「10時間以上」に変更され、適用対象が拡大されることになりました。
また、この改正に伴い、被保険者期間の算定基準も変更になります。
(現在)「賃金の支払の基礎となった日数が11日以上、又は賃金の支払の基礎となった労働時間数が80 時間以上ある場合を1ヶ月とカウント」
(改正後)「賃金の支払の基礎となった日数が6日以上、又は賃金の支払の基礎となった労働時間数が40時間以上ある場合を1ヶ月とカウント」
表1 雇用保険の被保険者期間の算定基準
自己都合離職者の給付制限の見直し(2025年4月1日から)
現在、自己都合で退職した場合には、ハローワークで求職の申し込みをした後、7日間の待機期間満了の翌日から2ヶ月間(5年以内の自己都合離職が3回以上の場合は3ヶ月間)は「給付制限期間」となり、いわゆる失業給付(基本手当)が支給されません。(※ハローワークの受講指示を受けて公共職業訓練等を受講した場合は給付制限が解除されます。)
今回の改正では、労働者が安心して再就職活動を行えるようにするため、この「給付制限期間」が原則1ヶ月間に短縮(※)されることになりました。さらに、離職期間中や離職日前1年以内に、自ら雇用の安定及び就職の促進に資する教育訓練を行った場合には、給付制限が解除されます。
(※)5年間で3回以上の自己都合離職の場合の給付制限期間は、引き続き3ヶ月です。
図1 基本手当の受給手続きの流れ(自己都合離職者)
教育訓練給付の拡充(2024年10月1日から)
個人の主体的なリ・スキリング(職業能力の再開発)等への直接支援をより一層強化、推進するとともに、その教育訓練の効果(賃金上昇や再就職等)を高めていく必要があることから、「教育訓練給付」についての見直しが行われることになりました。
・専門実践教育訓練給付金
教育訓練の受講後に賃金が上昇した場合、現行の追加給付に加えて、更に受講費用の10%(合計80%)が追加で支給されるなどの拡充が行われることになりました。
・特定一般教育訓練給付金
資格取得し、就職等した場合、受講費用の10%(合計50%)が追加で支給されることになりました。
表2 教育訓練給付金の対象資格・講座の例
教育訓練休暇給付金の創設(2025年10月1日から)
労働者が自発的に、教育訓練に専念するために仕事から離れる場合に、その訓練期間中の生活費を支援する目的で、賃金の一定割合を支給する「教育訓練休暇給付金」が新たに創設されます。給付の額については、いわゆる失業給付(基本手当)と同様の計算によることとされています。
<教育訓練休暇給付金の主な支給要件>
・雇用保険被保険者であること
・教育訓練のための無給の休暇を取得すること
・被保険者期間が5年以上あること
育児休業給付については、育児休業の取得者の増加などを背景に、支給率が年々増加しており、財政基盤の強化が急務であることから、以下の改正が行われることになりました。
◇国庫負担割合の変更(令和6年度から)
国庫負担割合が、現行の80分の1(暫定措置)から、本則の8分の1に引き上げられます。
◇保険料率の変更(令和7年度から)
当面の保険料率は現行の0.4%に据え置きつつ、今後の保険財政の悪化に備えて、本則保険料率を0.5%に引き上げる改正を行うとともに、実際の保険料率は保険財政の状況に応じて弾力的に調整する仕組みが導入されることとなりました。
令和6年度末までの暫定措置の延長(2025年4月1日〜)
令和6年度末(2025年3月31日)までの暫定措置であった以下の制度については、2年間延長されることになりました。
・雇止めによる離職者の基本手当の給付日数に係る特例:2年間延長
・地域延長給付(雇用機会が不足している地域における給付日数の延長):2年間延長
・教育訓練支援給付金(45歳未満の者に基本手当の80%を訓練受講中に支給する制度):給付率を基本手当の60%とした上で、2年間延長
就業促進手当の見直し(2025年4月1日から)
「就業促進手当」に属する手当のうち、以下の2つについて、内容が見直されることになりました。
・就業手当(安定した職業以外の職業に早期再就職した場合の手当):廃止
・就業促進定着手当(早期再就職し、再就職前よりも賃金が低下した場合に、低下した賃金6ヶ月分を支給):上限額を「支給残日数の20%」に引き下げ
来年以降、雇用保険について様々な改正が行われることになりました。特に、雇用保険の適用拡大により、所定労働時間の短いパートやアルバイト従業員を多く雇用している事業所では、手続きに伴う事務負担の増加も予想されます。雇用保険の手続き等でお困りの事業主様は、お気軽に「みらいく」までご相談下さい。
参照:厚労省「雇用保険等の一部を改正する法律案(令和6年2月提出)概要」