作成日:2024/07/09
割増賃金の算定基礎から除外となった在宅勤務手当について
在宅勤務をする社員に対し会社が支給する「在宅勤務手当」について、一定の条件下で、割増賃金の算定基礎から除外できることが明確化されました。今回は、「在宅勤務手当」と「割増賃金」について採り上げます。
◆はじめに
時間外労働等の割増賃金を計算する際の基礎となる賃金を計算する際には、法令で「除外してもよい手当」が決められており、それ以外の手当は算入しなければならないとされています。しかし、在宅勤務の普及に伴って支給されるようになった「在宅勤務手当」の取り扱いについては、これまで明確なルールがなく、実務上問題が生じていました。
今年4月、割増賃金の計算における在宅勤務手当の取り扱いについてのルールが厚生労働省より公表されました。
◆割増賃金とは
労働基準法第37条により、労働時間を延長し、または休日に労働させた場合においては、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率(ただし、時間外労働が1か月について60時間を超えた場合においては、5割以上の率)で計算した割増賃金を支払わなければならないとされています。
◆割増賃金計算から除外される手当
労働基準法第37条および労働基準法施行規則第21条により、「家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金」は、割増賃金計算に参入しない(除外される)と決まっています。その理由は、それらが労働との直接的な関係が薄く、個人ごとの事情によって実費弁償的に支給されるものであるためです。そのため、例えば名称が「住宅手当」であっても、実費によらず一律支給されるような場合は、割増賃金の計算の基礎から除外できません。
◆在宅勤務手当とは
在宅勤務手当(テレワーク手当)とは、在宅勤務に伴って発生する水道光熱費や通信費等を補填する目的で支給する手当で、コロナ禍で広く普及しました。支給方法は様々ですが、日額100円〜150円や、月額3,000〜5,000円程度に定めるケースが多いようです。
在宅勤務手当は、一般的には、労働基準法に定める「割増賃金の基礎となる賃金に参入しない手当」には該当しないと考えられます。
一方で、在宅勤務手当が以下の要件を満たす場合、すなわち「実費弁償」として支給されていることが明らかな場合には、割増賃金の基礎に参入しなくてもよいことが明確化されました。
◆在宅勤務手当を割増賃金の計算基礎に参入しない要件とは
在宅勤務手当を割増賃金の計算基礎に含めないこととするためには、労働者が実際に負担した費用のうち、業務のために使用した金額が特定され、当該手当は、当該金額を精算(=実費弁償)するものであることが外形上明らかである必要があります。具体的には、以下の要件を満たす必要があります。
☐ 就業規則等で、実費弁償分の計算方法が明示されること。
☐ 在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえた合理的・客観的な計算方法であること。
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◆実費弁償分の計算方法
在宅勤務における実費とは、主に「水道光熱費」「通信費」「事務用品等の購入費」「レンタルオフィスの利用料金」などが考えられます。その計算方法はいくつかあります。
具体的には『実費×在宅勤務日数/その月の暦日数×1/2』で計算する方法が示されています。1/2の根拠は、1日の法定労働時間8時間は、24時間から睡眠時間8時間を控除した16時間の半分であることからです。
A @の一部を簡略化した計算方法
これは、過去3ヶ月程度の平均実績をもとに@の方法で実費を計算して1ヶ月あたりの手当額を決め、以後固定額で支払う方法です。水道光熱費等は、季節による変動も想定されるため、労働者が実際に負担した費用との乖離がないよう、適宜見直す必要があります。
B 実費の一部を補填するものとして支給する額の単価をあらかじめ定める方法
これは、上記のような計算式で求める実費よりも低くなるように在宅勤務手当の単価を設定する方法です。実費を上回らない金額を支給するのであれば定額であっても実費弁償的であると言える、という理屈からです。
なお、これまで割増賃金の基礎に算入していた在宅勤務手当を、今後算入しないことに変更する場合は、労働条件の不利益変更に当たると考えられます。そのような場合は、労使間で十分な話し合いが必要なことに留意すべきでしょう。
参考URL:厚労省労働基準局長「
割増賃金の算定におけるいわゆる在宅勤務手当の取扱いについて」(令和6年4月5日基発0405第6号)