先日、厚生労働省から「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」が公表されました。今回はこのガイドラインから、特に職場における労務管理に関係がありそうな部分について解説します。お酒が好きな方も、そうでない方も、ぜひご一読いただき、職場で働く皆様の健康管理に役立てていただければと思います。
2024年2月、厚生労働省から飲酒に伴うリスクに関する知識普及のため、適切な飲酒量・飲酒行動の判断に資する「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」が公表されました。
このガイドラインは、アルコール健康障害の発生を防止するため、国民一人ひとりがアルコールに関連する問題への関心と理解を深め、自らの予防に必要な注意を払って不適切な飲酒を減らすために活用されることを目的としています。
今回はこのガイドラインから、特に職場で気を付けたいポイントについて解説します。
1⃣ 重要な禁止事項
飲酒をすることが法律で禁止されている場合や、健康上の理由で飲酒を避けることが必要な場合があります。これらは絶対にしない(させない)ようにしましょう。
<法律違反に当たる場合等>
・酒気帯び運転等(酒気帯び運転をさせることを含む)
飲酒時には、安全運転に必要な情報処理能力、注意力、判断力等が低下します。
・20 歳未満の飲酒(20 歳未満に飲酒させることを含む)
脳の発育に悪影響を及ぼし、依存症になる危険性も上がります。
・飲酒による不適切な状態での動作や判断によって事故や事件を招いてしまう行為
(フォークリフト等の機械の操作、公衆への迷惑行為等)
<特定の状態にあって飲酒を避けることが必要な場合等>
・妊娠中・授乳期中の飲酒
妊娠中の飲酒は、胎児へ胎児性アルコール症候群等をもたらす可能性があります。
・体質的にお酒を受け付けられない人の飲酒
飲酒運転、20歳未満の飲酒、妊娠中の飲酒は絶対にNG!
2⃣ 体質の違いによる影響
アルコールを分解する体内の酵素の働きの強さは、個人によって大きく異なります。アルコールを分解する酵素が非常に弱い人は、ごく少量の飲酒でも、強い動悸、急に意識を失うなどの反応が起こることがあり、危険です。そこまでいかなくても、体質により、顔が赤くなる、動悸や吐き気がする状態になる場合があります。
また、元々お酒に弱いタイプの方が、長年飲酒して、不快にならずに飲酒できるようになった場合でも、アルコールを原因とする口の中のがんや食道がん等のリスクが非常に高くなるといったデータがありますので、注意が必要です。
また、ガイドラインの中で「避けるべき飲酒等」として「他人への飲酒の強要等」が挙げられています。会社の懇親会でのイッキ飲みの強要や、飲み放題で各自のペースを考えずにお酒をどんどんオーダーするなどの行為は、いわゆる「アルハラ」(アルコール・ハラスメント)に該当し、問題となる可能性があります。
自分の体質をよく理解するとともに、決して周りの方への飲酒の強要をすることがないようにしましょう。
体質には個人差があると理解し、決して「アルハラ」をしないこと
3⃣ 年齢の違いによる影響
年齢の違いによる影響も知っておく必要があります。ガイドラインでは、次のように述べられています。
年齢を問わず「飲みすぎ」は良くないものですが、特に高齢者や若年者については、より一層、注意が必要です。高齢者は、若い頃と同じ感覚で飲みすぎてしまう場合がありますし、お酒を飲み始めたばかりの若年者は、自分の適正な飲酒量を知らずに飲みすぎてしまう場合があります。ときどき周りの人の様子に気を配り、飲みすぎていないか注意しましょう。
高齢者や20歳代の若年者の飲酒量には特に注意する
4⃣ 過度な飲酒による影響
ガイドラインに記載されている「避けるべき飲酒等」として、他に「一時多量飲酒(特に短時間の多量飲酒)」も挙げられています。
短時間に多量のアルコールを摂取すると「急性アルコール中毒」になる可能性があります。また、急性アルコール中毒まで至らなくても、過度な飲酒により、運動機能や集中力の低下等が生じ、行動面でのリスク(路上や公共交通機関でのトラブル、重要書類の紛失等)に繋がります。翌朝の仕事にも影響するかもしれません。
また、長期にわたって大量に飲酒をすることによって、「アルコール依存症」や生活習慣病、肝疾患、がん等の疾病が発症しやすくなります。もしアルコール依存症になったら、仕事や家庭にも大きな影響が出てしまうでしょう。
飲みすぎは、様々なトラブルや健康リスクに繋がります!
5⃣ 飲酒量と疾病リスク
自らの飲酒量を把握し、疾病リスクについて知っておくことも大切です。飲酒量については以下の計算式が参考になります。
【お酒に含まれる純アルコール量の計算式】
摂取量(ml) × アルコール濃度(度数/100)× 0.8(アルコールの比重)
例: ビール500ml(5%)の場合の純アルコール量
500(ml) × 0.05 × 0.8 = 20(g)
以下の「我が国における疾病別の発症リスクと飲酒量」表によると、例えば男性の場合では、1日40g以上の飲酒により脳梗塞の発症リスクにつながり、また1日60g以上の飲酒により肝がんの発症リスクにつながるとされています。※体質によって個人差があります。
表1 我が国における疾病別の発症リスクと飲酒量(純アルコール量)
6⃣ 健康に配慮した飲酒の仕方等について
健康に配慮した飲酒をするため、以下に気を付けることをおすすめします。
◇自らの飲酒状況等を把握する
自分の状態に応じた飲酒により、飲酒によって生じるリスクを減らすことが重要です。飲酒について問題を抱えている場合は、医師等へ相談したり、診断テスト等を参考に、自らの飲酒習慣を把握することなどが考えられます。
◇あらかじめ量を決めて飲酒をする
自ら飲む量を定めることで、飲酒行動の改善につながると言われています。行事・イベントなどの場で飲酒する場合も、上でご紹介した「飲酒量の把握」の計算式などを参考にしてみましょう。
◇飲酒前又は飲酒中に食事をとる、水や炭酸水を飲む
食事をとることで血中のアルコール濃度を上がりにくくし、お酒に酔いにくくする効果があります。水などを混ぜてアルコール度数を低くして飲酒をすることによって、摂取するアルコール量を減らす効果があります。
◇一週間のうち、飲酒をしない日(休肝日)を設ける
毎日飲み続ける「継続しての飲酒」を避けることで、依存症になりにくくなると考えられます。
職場においても、歓送迎会や懇親会などでお酒を飲む機会があるかもしれません。お酒が好きで、つい飲みすぎてしまう…という方もいるかもしれませんが、ご自身と周りの方への健康への配慮を忘れないようにしましょう。
参考リンク:厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」